あしながおじさん (望林堂完訳文庫)


タイトルあしながおじさん
原 題Daddy-Long-Legs
著 者ジーン・ウェブスター
翻 訳毛利孝夫
形  態文庫
レーベル望林堂文庫
出 版 社望林堂

世界の名作は恋愛小説だった

ある日突然、ふと思ったんです。
あの作品って確か恋愛要素があったような・・・。

数十年ぶりに読み直したら180度イメージが変わったのが「あしながおじさん」

それでは、レビュー開始。

大きな声では言えないけれど、大嫌いでした

初めて「あしながおじさん」を読んだのは、小学校中学年~高学年の頃だったと思います。
管理人が子どもの頃、本を読むといえば、近所の図書館から借りてくる本でした。
それともうひとつ。
子ども部屋と寝室、それぞれを共有していた姉が借りてきて部屋の片隅に置いた本を(勝手に)拝借。

少女小説にはまったのも、確か入院していた友人が大量に購入した少女小説を姉が借りてきて、どさりと山のように置いたものを(勝手に)拝借して読んだのが始まり。
姉よりも読書欲が強く、そして読むスピードも早かったので、余裕で全てを読み終えられたのでした。

「あしながおじさん」もそんな風に姉経由で読んだ本のひとつ。

ピアノの側でころころと転がりながら初めて読んだ感想は、『退屈』。

子ども時代の管理人にとっては、主人公のジュディが一方的にその日の出来事を語る日記調(実際には、あしながおじさんに宛てた手紙)の文章は、退屈で仕方がなかったのです。

物語というのは、人とのやり取りやらその他の描写があって初めてワクワクするものじゃないかと。

ひたすら一方的に「おじさま」に語りかける物語はうんざりする程単調に感じられたのでした。

「あしながおじさん」といえば、誰もが知る名作中の名作。
でも、管理人は『あしながおじさん?ああ、あの退屈な話ね』(失礼)という感想のままでした。

が。

読了後数十年経ってから突然思い立ったのです。
あれ?「あしながおじさん」って確か恋愛要素があるお話なんだよね。私が読んだ時、そんなに恋愛要素感じなかったけどな。

手にしたKindleで探してみたら、Amazonでコイン数枚で購入可能。
これは買いでしょう!と早速購入して読み直してみたならば・・・。

はまりました。

物語の読むべきタイミング

思い出しました。

子どもの頃ってよく夏休みとかに読書感想文を書かされるのだけど、課題図書として提示されるものがどれも退屈に思えて仕方なかったことを。

大人にとって良作であっても子どもにとっては良作(面白い本)ではないことが多々。

今になって思うと、物語には読むべき旬があると思うんです。
それは、発売された時代に読めとかではなくて、ある年代になったら読め
そういう意味でして。

だって「あしながおじさん」、凄く面白かったんです。
あんなに退屈でつまらなくて読み進めている内にぼーっとして眠たくなるような、あの気だるい午後の記憶を今でも鮮やかに思い出せる位だった物語が、今読むと凄く面白い。

それはもう衝撃的な位の印象の違いでした。

シンデレラストーリー

孤児院で生まれ育った主人公ジェルーシャ(ジュディ)は、明るくユーモアのある女の子。
成績がとても良いこともあって、16歳になったら孤児院を出て行かなくてはいけないところを高校まで通わせてもらい18歳になった今も孤児院にいる。

高校を卒業したら、さすがにもう孤児院にはいられず、通常は働きに出るところを院長先生からとある理事からの驚くべき提案を伝えられる。

あなたには独創性があると信じてらっしゃいます。
あなたに勉強を受ける機会を与えて、作家にさせたいと思っておられるのです。

ジュディが書いたエッセイが理事達が集まる定例会議の前で発表されたことから、そのユーモア溢れる文章に魅了された理事がジュディを大学に進学させることを決意したとのこと。

そのジュディを大学に行かせる援助を申し出たのが「おじさま」こと「あしながおじさま」。

匿名で援助したいという理事の要求は、月に一度の「礼状」。
ただし、それは金銭に対するお礼ではなくて、勉強の進み具合や日常の出来事を家族に対する手紙のように書いて出してほしいというもの。

手紙を書くことほど、文学的表現力を養うものはないと、あの方がお考えだからです。

そんな形で始まる「あしながおじさん」。

これは、シンデレラストーリーそのものだと思うんです。
この作品が書かれた時代、現代日本と違って、誰もが大学に進学することではない状況の筈。
孤児院の子ども達が16歳になったら孤児院を出て行かなくてはいけないこと、またそういう子ども達には、仕事を紹介しているという院長先生の発言からも分かります。

それがぽーんと大学の進学費用から生活費まで。
そして、『作家にさせたい』。
そんな簡単に作家ってなれるものだっけ・・・?
思わず内心で呟いたのは私だけでしょうか。
名前を決して明かさずにジョン・スミス(日本名でいうならヤマダタロウな)仮名でやり取りしようとするところといい、あしながおじさんも中々の変人ぶり。

院長先生とのこの進学に関するやりとりの後、物語は全てジュディが紡ぐ日記調(手紙)の文章のみで物語がつづられます。

想像力によって完成する物語

読み直してみると、実に深い。

明るくて前向きな女の子ジュディですが、孤児院育ちで一般家庭で育ってきた子ども達とは、全く常識が異なること(例えば誰もが親に読み聞かせてもらっている物語を知らない)とか、個性を潰すような画一的な育て方をする孤児院の生活だとか、孤児院の子どもに対する“慈悲深い人たち”の態度だったり、手紙の中で漏らす内容は、決して明るい内容だけではありません。

お古ではない、自分だけの新品の洋服を手にしたお金で購入した喜び。

本名も教えてくれず、手紙に対する返事も出してくれない理事に対する気持ち。

すべてはおじさまのお気持ち一つ。
もしわたしがあまりに無礼だと思われたら、いつでも小切手の支払いを止めることができますもの。

鬱屈した思いもあるし、弱気になることもある、癇癪を起こして酷い言葉を手紙に書き連ねることも。

あれ、何だろうこの辺、子どもの頃に読んだ時には全然気付かなかったぞ?

主人公の置かれた状況や様々な入り組んだ思い。
そういう思いを文面から読み取るのは、小学生の頃の管理人には難易度が高かったようです。

そう、それに主人公大学生ですよ!
学生生活の楽しみとか、これは大学生かむしろ社会人以上でないと連想しづらいんじゃないでしょうか。

言葉の端々からにじみ出る女の子の本音。
複雑な事情やその思い。
そういうことをくみ取るのは、大人にならないと無理だったようです。

子どもの頃も大人になっても、自分はそんなに対して変わらないような気がしていたのですが、推察力だったり想像力は、やはり年を重ねるごとに鍛えられていったんだなぁということに思い至りました。

ただ内容を追うだけではつまらないのも当然。
この物語には、それを補う想像力があって初めて面白さや感動が生まれ名作になるのです。

そう、それに恋愛要素もね!
いやあ、恋愛ネタに注目して読むと萌えますよ、ええ本当。
手紙の中でところどころ落ちているネタを読了後に読み直して拾い集めたくなること必至!

これは子ども向けの名作ではない。
大人向けの恋愛小説なのだ。

そう熱く語りたくなった作品でした。

■ブックデータ

タイトル: あしながおじさん
著  者 ジーン・ウェブスター
翻  訳 毛利孝夫
形   態 文庫
レーベル 望林堂文庫
出 版 社 望林堂
【管理人評価】
 ・満足度 ★★★★☆(まさかの名作でときめきました)
 ・イメージキーワード 
  「名作」「恋愛小説」「再読必須」
 ・読後の感想
  「これは、児童文学じゃなくて大人向けでしょう!」

【購入可能サイト】

・Amazon
あしながおじさん (望林堂完訳文庫)
・楽天kobo
あしながおじさん【電子書籍】[ ウェブスター ](光文社古典新訳文庫)
・Renta!
なし
・eBookJapan
Daddy-Long-Legs あしながおじさん(IBCパブリッシング)

【余談】

古くから知られるだけに様々な翻訳版がある「あしながおじさん」。
その口コミをみてみると、「挿絵」について語っている方を多く見かけます。
ジュディが手紙に描いたイラストは、作者のジーン・ウェブスターが描いたものだとか。

そのイラストがあるのとないのとでは大違い!と熱く語る方多数。

下手ウマなイラストは確かに味わい深く、日記調な語り口に変化をもたらしてくれる良い要素。

私が読んだ望林堂版もイラスト付きですが、一箇所だけイラストが抜けていたような。
元からないのか、落丁?なのかは謎です。

これから読まれる方は、ぜひイラスト有のものを!
そんな違いがあることも子どもの頃の自分は知りませんでした。

今のネットで様々な方の口コミ・感想を読める幸福を実感しています。