タイトル | 春の呪い: 1 | |
著 者 | 小西 明日翔 | |
形 態 | コミック | |
レーベル | ZERO-SUMコミックス | |
出 版 社 | 一迅社 |
たった一つの拠り所を失った 。
「このマンガがすごい!2017 オンナ編」ランキング2位作品。
最愛にして唯一の家族である妹・春(はる)を失った主人公・立花夏美(たちばな なつみ)は、春の代わりに彼女が愛した恋人であり婚約者の柊冬吾(ひいらぎ とうご)と付き合うことになった。
喪失と絶望、そして罪悪感に苛まれながら続く二人の付き合いは 。
全2巻の「春の呪い」。
それでは、レビュー開始。
喪失から始まる物語
物語は主人公・立花夏美(たちばな なつみ)の妹・春(はる)が19歳の若さで亡くなった葬式のシーンから。
生前頼まれていた通り、夏美は春とその婚約者・柊冬吾(ひいらぎとうご)が写った写真を棺に入れ、最後の別れを告げる。
・・・お姉ちゃんが行くまで待ってて
すぐ行くからね
その様子を背後から黙って見つめる冬吾 。
何とも陰鬱でやるせない物語。
自分の手に手を重ねる冬吾を見つめ返しながら、もう片方の手で重なった二人の手を夏美が包丁で貫く。
そんな絵が描かれている、第一話 「Spring is gone.」の表紙。
この第一話の表紙が物語全てを表しているかのようです。
奪われた拠り所
ずっと二人でいられればそれでいい
父親との関係がうまくいかず、妹・春と支えあって生きてきた夏美。
だがその関係は、高校時代に柊冬吾の登場によって終わりを告げる。
桁違いの規模と歴史を持つ財閥・相馬グループを支える分家の一つ、柊家の女性(冬吾の母)が、春に冬吾との縁談を持ち込んだのだ。
いたって普通の中流家庭である夏美の家だが、父親の血筋(没落した立花財閥の子孫であり家系でいうと本家長男)を見込まれての見合い。
二人の娘の内、
かわいいし大人しい 何より私と違って頭がよかった
春に白羽の矢が立つ。
いたって普通の中流家庭の娘と”本物の大金持ち”の息子。
だが、春は一目で冬吾に恋をする 。
一瞬にして最愛の心を奪った男を殺してやりたいと思う夏美。
だが、亡くなったのは最愛の妹・春だった 。
妹の代わりに
妹が死んだのならその姉と付き合ってはどうか。
葬式の日に淡々と冬吾に告げられて、夏美は冬吾と付き合うことになる。
わかりました・・・
でも・・・一つだけ・・・条件つけてもいいですか・・・春と二人で行った場所に・・・
私を連れて行ってくれませんか・・・
最愛の妹の痕跡を追う夏美。
妹の愛した男と付き合う罪悪感と妹に会いたいと願う狂気。
笑うことなく何事にも執着することなく親の期待する道を歩いてきた男。
甘さのない重く陰鬱な空気の中、ぎこちなく会話を交わす二人の付き合いの終着点とは?
二人の間に横たわる”春の呪い”
唯一の拠り所を失った夏美の狂気と危うさ、そして春が生きていた頃の冬吾から見た夏美の姿。
物語の全体が重く陰鬱な雰囲気に溢れています。
管理人は、救いのない物語が嫌いです。
でも、何だろう、この病んでるけどぎりぎりのところで現実に踏みとどまっている危うさ、嫌いじゃない。
いや、むしろ好き?
夏美視点から冬吾視点、そして2巻に入り春視点も加わり、過去のそれぞれの思いが明らかに。
タイトル | 春の呪い: 2 | |
著 者 | 小西 明日翔 | |
形 態 | コミック | |
レーベル | ZERO-SUMコミックス | |
出 版 社 | 一迅社 |
ただただ春の死に打ちのめされていたのが1巻だとしたら、”妹の愛した男” としてではなく冬吾という存在そのものに夏美が目を向けて話が動き出す2巻。
それぞれの表紙を並べると、夏美の変化がよく分かります。
作者さん、表紙描くのうまいですね。
恋愛ものではありますが、最後まで甘いお話ではありません。
ですが、夏美と義母、冬吾と従兄弟、冬吾と母親と、恋愛だけでない関係性がまたいい味出していて、1巻では影を潜めていた夏見の健全な明るさ(の片鱗)が、描かれたりと”救いのある” 実はとても健全な物語でした。
二人の間に横たわる”春の呪い” という罪悪感。
それに対して冬吾が告げた言葉 。
何だろう、まるで純文学を読み終えたような、そんな読後感の作品です。
■ブックデータ
タイトル:春の呪い
著 者 小西 明日翔 形 態 コミック レーベル ZERO-SUMコミックス 出 版 社 一迅社
【管理人評価】
・満足度 ★★★★★(星評価4.5)
・イメージキーワード
「罪悪感」「狂気」「因習」「喪失」「陰鬱」「救い」
・読後の感想
「陰鬱なのにぐいぐい引き込まれるストーリーが凄い!」
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【余談】
正直、この作品の絵は上手くないと思うんです。(←失礼)
上手くないというか、華やかさがないというか。(←かなり失礼)
でも、そんなことを吹き飛ばす位、ぐいぐい物語の中に引き込まれました。
上でも書きましたが、まるで文学作品を読んでいるような気持ちに。
絵が上手くなくても(本当すみません失礼で)、会話や描かれるシーンが素晴らしいからこその吸引力なのでしょう。
ちょっと話がずれますが、この作者さん、男性です・・・よね?
初めて冬吾が夏美と目を合わせたシーンが何かこう生々しく印象的だったので、そんなイメージが。
喪失感や狂気、そして罪悪感と、描かれる内容は恋愛ものとはいえ<少女マンガ>の中に入れていいものかと思う大人な内容でしたが、R系描写がないのでこちらのカテゴリへ。
読んでよかった。
「このマンガがすごい!」のようなランキングは、普段自分が絶対読まないような作品に気付かせてくれるので良いものですね。