タイトル | 蜜惑オメガは恋を知らない | |
著 者 | ナツ之 えだまめ | |
イラスト | のあ子 | |
形 態 | 文庫 | |
レーベル | 幻冬舎ルチル文庫 | |
出 版 社 | 幻冬舎 |
こんなオメガバースが読みたかった!
“オメガバース” という設定を知ったのは、ここ最近のこと。
「これ、絶対自分好みだ!」と思ったものの、オメガバース設定を使った作品の中に、面白いと思うものがなかなか見つからず。
そんな中、手にしたこちらの作品。
「そう、こんな作品が読みたかったの!」
思わず叫びたくなった程、管理人の好みにぴったり!
今年読んだBL小説の中で五本の指に入れたい程の管理人お気に入り作品「蜜惑オメガは恋を知らない」。
それでは、レビュー開始。
“オメガバース” とは?
“オメガバース” という言葉に馴染みがない方もまだいるでしょうか。
簡単に言えば、性別の設定なのです。
この世界では、最近ではゲイなどセクシャルマイノリティもありますが男性・女性の2択。
ところが、オメガバースの世界では、男性・女性といった性別に加えてアルファ・ベータ・オメガの3種類がありまして。
- アルファ・・・・非常に優れた資質を持つ
- ベータ・・・アルファでもベータでもない標準的(?)な性
- オメガ・・・男性でも出産が可能
めちゃくちゃ端折ってます。
詳しい説明は、ピクシブ百科事典の”オメガバース“の項に詳しいです。
(説明丸投げ)
上の3つの性種類に大きく関わるのが、”発情期”や”フェロモン”といった要素。
オメガは発情期にフェロモンを発して、アルファなどを無自覚に誘ってしまうなど・・・うん、エロ設定ですね。
一口に”オメガバース” といっても、作品によって微妙に設定が異なることが多いのですが、大体描かれるのは”アルファ” と”オメガ” の攻防でしょうか。
特に”産む”側の性である”オメガ” が、劣勢遺伝子のように語られ、葛藤が描かれることが多い気がします。
で、今回の作品についてですが。
信頼しあえる親友で相棒
主人公の宇田川智宏(うだがわ ともひろ)は、個人で事務所を持つ弁護士。
色が白く茶色がかった髪に透けるような虹彩を持ち、「思っていたより若い」「アイドルに似ている」と言われる二十六歳。
レトロなビルに構える彼の事務所に入り浸るのは、隣で探偵事務所を営む弓削恒星(ゆげ こうせい)。
“人なつこいプードルのように癖のある黒髪” を持つ彼は、智宏と高校時代から十年の付き合いになる”アルファ”。
そして、智宏は”オメガ” だった 。
依頼人である女性がストーカーから逃れる為の手助けなど、弁護士である智宏の仕事の荒事の部分を支える探偵の恒星。
こう書くとハードボイルド系なお話かと思われるかもしれませんが、主人公が繊細な性格をしている為か、殺伐とした話でもなく。
この二人の関係性が凄くいいんですよね。
大らかでカリスマ性を持つ出来る男・”アルファ” の恒星と”オメガ” でありオメガであるが故の過去にどこか内省的で物静かな智宏。
恋愛ネタを絡めずに、ひたすら事件を解決する話でも満足出来ちゃうんじゃないかと思う位でした。
BL作品って、出会ってすぐにいきなり恋愛モードに突入しちゃう話が多いのですが、この作品は主人公・智宏の”オメガ”としての葛藤やその中で高校時代の恒星との出会いと生き方の変化・・・。
そちらに重点が置かれているので、べた甘な話でもなく、もう智宏の苦難に満ちた人生そのものの物語というか、人間ドラマなんですよね。
感動せずにはいられません。
“オメガ” のトラウマ
この作品のポイントとなるキーワードとして重要なのが”オメガ変転”、”ヒート”、そして”伴侶”と”つがい” の違い。
そして、”オメガ” が、オメガとして生まれてくるのではなく、”ベータ” から変転するということ。
変転して以降、オメガは三ヶ月に一度、”ヒート” を迎える。
“ヒート” それは激烈な発情期。
オメガ変転のトリガーの一つは「運命の相手」に出会うこと。
それは”オメガ” と “ベータ” の一対で、相手を見出して交合した後は、相手にしか欲情しなくなり、またオメガのフェロモンも運命の相手である”伴侶” にしか効かなくなる。
だが、最も多いのは、二十歳前後で突然オメガ変転するパターン。
主人公智宏の不幸は、まだ恋愛も欲望の何たるかも知らない9歳の時に、突然オメガ変転してしまったこと。
二十歳前後になることが多いオメガ変転を9歳で経験。
現実世界で例えるならば、9歳でセックスしちゃった位のインパクト。
「そりゃあすごいね。念のため聞くけど、伴侶はいないんだよね?自然にヒートが来たんだよね?」
医師も含めた周囲の好奇の目。
“伴侶” と出会ってからのオメガ変転ならば、まだ理解されたかもしれない。
けれど、不幸なことに智宏は、”はぐれオメガ”と呼ばれる変転。
伴侶のいないはぐれオメガは、ヒートごとに強力なフェロモンを発し、あらゆる性の人間を引き寄せ、自身も極端に情欲に弱くなる 。
思春期前に、こんなことになったら地獄を見るのは明らかでしょう。
オメガの数は少なく、アルファから奪い合いの世界。
アルファとつがう”特権” として裕福に暮らす者がほとんどという世界で、九歳からずっと抑制剤を飲み続け頑なに恋愛を拒否してきたのも納得の過酷な状況です。
“オメガ” として生きてきた道
物語の大半は、智宏が”オメガ” として通ってきた道のりの回想がメイン。
智宏が入所したオメガの保護施設で出会った様々な人々。
過酷なオメガとしての習性に翻弄されるオメガの仲間達。
オメガバースでオメガ女性が描かれていたのを初めて読んだので、そちらの意味でも新鮮でした。
そして、”伴侶” を持つアルファの姉を持つ恒星との出会い 。
「智宏、知ってるか。出る杭は打たれる」
「うん」
「でも、抜けちゃえば打たれないんだ」
出る杭は打たれるんだよ、本当。
管理人の社会人経験からもやけに響いたこの言葉。
智宏にとって奇異や好奇の目でしか見られなかった周囲の中から現れた唯一の理解者。
それが恒星だったんではないでしょうか。
「俺らはいいコンビになるよ。こういう勘は冴えてんだ」
大型犬のように智宏によりそう恒星。
甘えたりはするものの全く恋愛要素を出さない彼と、どうやってラブラブになるのか。
彼が最後になって明かす心情は 。
智宏がどうしても自由になれず恐れる”本能”とは 。
最後まで、どきどきしながら読み終えました。
収録話
大満足の本編「蜜惑オメガは恋を知らない」とその直後の恒星の回想(男前な姉・流星が伴侶を家族に引き合わすシーン有!)から始まる「恒星アラウンド」。
オメガの保護施設での仲間・類(るい)が開くフレンチレストランに智宏と恒星が二人で訪ねていく「再会コングラッツ」。
恒星、いい男です。
■ブックデータ
タイトル:蜜惑オメガは恋を知らない
著 者 ナツ之 えだまめ イラスト のあ子 形 態 文庫 レーベル 幻冬舎ルチル文庫 出 版 社 幻冬舎
【管理人評価】
・満足度 ★★★★★(大絶賛!)
・イメージキーワード
「オメガバース」「トラウマ」「相棒」「親友」「切ない」
・読後の感想
「オメガバース題材小説の中で、一番好きな作品!この世界感大好き!」
【購入可能サイト】
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【余談】
あんまり好き過ぎて、レビューであらすじに触れられませんでした。
智宏の幼い頃から施設での生活、恒星と出会った高校時代から初めて抑制剤なしで迎えるヒートなど、内容は盛りだくさんです。
が。
これ、シリーズ化してほしい。
いえ、シリーズ化しますよね?
施設の仲間である料理人・類(るい)の恋愛模様は、電子限定おまけの巻末ショートストーリーだけでは勿体無い!もう一から読みたい!
男前な恒星の姉(アルファ)とその伴侶である筋骨隆々な辰之進(オメガ)の恋愛話、読みたい!(あれ、でもBLじゃなくなっちゃうな・・・)
保護施設の仁科(にしな)の切ない恋愛エピソードもぜひ!
この作品だけで終わってしまうには勿体無い数々のエピソード。
個性的な登場人物達。
シリーズ化されたら全作品購入します。
ええ、絶対。