運命を告げる恋人 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)


タイトル運命を告げる恋人
シリーズブラック・ダガー・ブラザーフッド
原 題LOVER AWAKEND
著 者J. R. ウォード
翻 訳安原 和見
形  態文庫
レーベル二見文庫 ザ・ミステリ・コレクショ
出 版 社二見書房

魂を失った男の意外な行動

結びつきの強いヴァンパイア戦士達の集団「黒き剣兄弟団」”ブラックダガー” の中でも異彩を放つザディアス。

顔にナイフで刻まれた大きな傷跡を持ち、人を拒み、いつ暴走するか分からない危うい存在である彼の恋愛とは、一体どんなものなのか  

“ブラック・ダガー・ブラザーフッド” シリーズ3作目は管理人好みの高評価作品です。

それでは、レビュー開始。

前作必読の不穏な始まり

顔面に走る大きなナイフの傷跡を持ち、暴力的で人を拒むザディアスは、仲間からも距離を置かれるような危険な存在。
そんな彼の悪評を知りながらも興味を持ち近付いてきたヴァンパイア貴族の娘ベラ。

前作「永遠なる時の恋人」で印象的な出会いをした二人の恋愛模様が描かれた「 運命を告げる恋人」。

未読な方は、ぜひ前作を読了することをオススメします。

「ザディスト、ばか、よせ!飛びおりるなって  

自らの身を省みず宿敵であるレッサー(殲滅者)に襲い掛かるシーンから始まる今作品。
ザディストがただひたすらに捜し求めるのは、前作でレッサーにさらわれてしまったベラの行方。

前作で近付くベラを手酷く拒絶したザディストが、必死にベラの行方を捜し求める姿には、驚くと同時にときめきますね。

ベラのいなくなった家に毎日のように訪れ、乱闘で荒れた部屋をキレイに片付け、掃除し、金魚の餌をやろうとしてベラの家族に先を越されたことに気付いて腹を立てる。

何でしょうこの一生懸命な感じ。
“傷跡を負い、魂を失った者” 残忍で凶暴な戦士が、見せる盲目的な行動に圧倒されます。

凶暴・凶悪なヒーローの献身

ベラが捕まったレッサーは、よりにもよって精神的な歪みを抱えた最悪な相手。
助け出した時のベラの状況は、凄惨で息を呑むほど。

傷ついたベラを自分の側で守ろうとするザディストの姿は、まるで手負いにも関わらず獣が最愛の者を必死に守ろうとする姿を連想しました。

ベラを傷つけるのでは、殺してしまわないかと心配される程、仲間に信用のないザディストが気の毒になりますが、それは今までの彼の行動がそう思わずにいられないものだったのでしょう。

ザディストが意識を失いうなされるベラを慰める為に歌うシーンは、大好きなシーンの一つです。
凶暴な男が愛する女性の為に紡ぐ天使の歌声。
ナニコノ意外性、素敵過ぎ。

彼女が目覚めれば一件落着、ラブラブになるかと思いきや。

ベラから自分を遠ざけようとするザディスト。
心から求めているのに恐れ離れようとするザディスト。
ザディストの距離の置き方は、異様ささえ感じる程。

彼女を失うと思っていた時には、「もっと違う態度が取れなかったのか」と激しく後悔していたにも関わらず、彼女が生きて戻った途端に前とは違うながらも再び距離を取ろうとする。

傷つき縋り付くにザディストの温もりを求めるベラと、あまりに深く自分を抑え込もうとするザディストの葛藤。

二人のやり取りから見えてくるものは  

あまりに重いザディストの過去と傷

大きなナイフの傷を刻んだ顔、凶暴で残忍で仲間たちさえも手に負えぬ者として描かれてきたザディアス。
その彼の今まで明かされてこなかった事実や様々な事柄が今作で語られていきます。

元々治癒力が高く、傷を負ってもすぐ言える筈のヴァンパイアなのにも関わらず、何故ザディアスの顔にナイフの傷が刻まれているのか。

彼の双子の弟であるフュアリーに、未来視能力がある仲間のヴィシャスが告げる言葉。

「あいつはお前には止められん。永久にな」

フュアリーのザディアスに対する哀しい思い。

「食いもんは嫌いなんだ」
「自分で料理するか、もとの形のままのもんでなきゃ、なかになにが入ってるかわからねぇだろ」

ガリガリに痩せ細った身体に乳首にピアス(!)をした彼が、食事とするたったりんご1個についてのベラとの語らい。

養ってほしい(血を飲ませてほしい)と願うベラに応えようとして、おかしくなったザディアスの言動。

「おれは不潔なんだ。全身汚れきってる。汚い、汚いんだ・・・」

あまりに重い過去と本能を凌駕する程の抵抗感。

そして、彼の双子フュアリーもベラに恋することによって話が複雑に。
双子であるのに全く正反対の性格、ポジションにいる二人。
二人が共有する過去に対するお互いの思いが、唯一の家族であるにも関わらず哀しい程距離のある関係になっている。

そのまま平行線になるかと思いきや、その彼に一線を越えさせるモノ・出来事は何なのか。

見どころはそこでしょう。

一波乱二波乱もあるストーリーの中、二人の関係はもどかしい程落ちつきません。

繊細で一途な愛

ベラとの関わりの中で、ザディアスが見せる別の一面。
暴力的で残忍な顔の下に隠されていたのは、あまりに一途で繊細な思い。

どうしても踏み越えられない壁に憤りながらも求めるベラの可愛さ。
何だろう、年下の女の子ならではの特権的な可愛さというのでしょうか。

怒りと無痛の世界にいたザディアスの恋愛が、こんな形のものになるとは想像が出来ず、そのギャップにすっかり心を掴まれました。

何だろう、可愛い。
年下のベラの可愛さは、もちろん、まさかの言動を見せるザディアスが可愛いってどういうことだ。

最後の最後で描かれる後日談。
ザディアスが手にしたものを見ると、もう胸が温かくなります。

意外性とヒーロー・ヒロインの魅力がとびきり素晴らしい作品でした。

■ブックデータ

タイトル: 運命を告げる恋人
著  者  J. R. ウォード
原  題 LOVER AWKEND
形   態 文庫
レーベル 二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション
出 版 社 二見書房
【シリーズ一覧】
 1. 黒き戦士の恋人:ラス
 2. 永遠なる時の恋人:レイジ
 3. 運命を告げる恋人:ザディスト
 4. 闇を照らす恋人:ブッチ
 5. 熱の炎に抱かれて:ヴィシャス
【管理人評価】  
・満足度 ★★★★★(文句なし星評価5.0)  
・イメージキーワード   
「救出」「慟哭」「傷」「過去」「ギャップ」「再生」  
・読後の感想   
「複雑な男が見せる意外な一面と年下女の子の可愛さにやられた!」

【購入可能サイト】
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運命を告げる恋人 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)[紙本]

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【余談】

 レビューは、ヒーロー・ヒロインであるザディアスとベラの話に終始しましたが、物語の中では、様々な人物達の様々な状況が描かれていきます。

ある人物にとっては素晴らしく、ある人物にとっては人生が破壊されるような・・・。
ここで書いては興ざめなので控えますが、どんどん話が広がっていくので、シリーズを順番通りに読むことは必須かと。

次の作品では、どうなるのだろう。
何てドラマチックな展開だろう、この続きは次の作品で読めるの?

時系列で様々に変化していく物語には、目が離せなくなるような引力があります。