闇を照らす恋人 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)


タイトル闇を照らす恋人
シリーズブラック・ダガー・ブラザーフッド
原 題LOVER REVEALED
著 者J. R. ウォード
翻 訳安原 和見
形  態文庫
レーベル二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション
出 版 社二見書房

ヴァンパイアの中にある唯一の人間の苦悩

<ブラック・ダガー・ブラザーフッド>シリーズ第4作目は、1作目から登場している元刑事ブッチの恋愛物語。

1作目の事件以降、美貌のヴァンパイア達の中に驚く程馴染んでいた彼の纏う鬱屈とは?

それではレビュー開始。

外部者の葛藤

前作、前々作と報われぬ恋に思い悩んでいたブッチ。
長年、純血の王ラスのシェラン(連れ合い)として存在し1作目でその関係を解かれた美しいヴァンパイア貴族・マリッサへの報われない思いもどうにか消化できるようになったのか、バーで苦い思いを噛み締めるまでの落ち着きぶり。

美しい異形のヴァンパイア達との生活に早々に馴染んでいた彼は、やがて人間であるが為に仲間達と戦うことが出来ず、また知りすぎてしまったが為に人間の世界に戻れないという宙ぶらりんの状況の中、鬱屈した思いを抱えていた。

そんな彼が陥った人生最大の危機とは  

その頃、ブッチの焦がれる相手・マリッサは、同じように”グライメラ”(ヴァンパイア貴族の核心集団)の社交の場で孤独と疎外感に襲われていた。

盲目の王から去られた元”王のシェラン”。

この世ならざる美貌を持ち、一族の中で最も純粋な血を持つにも関わらず、王に去られたことによって忌避すべき者とそいての烙印を押されてしまった彼女は、求められぬ自分の存在に深く傷つき悲しんでいた。

ブッチに思いを馳せようとする自分を必死に抑えるマリッサ。

最後に会ったとき、ブッチ・オニールはそっけなく去っていった。
もう彼女に興味がないのだ。

ん・・・あれ?どういうこと?

シリーズを読んできた人間なら、当然ここで首を傾げるところ。
何故ならブッチは1作目でお互い魅かれあった後、門前払いをされ続けて関係を築くのを諦めたのだから。

人間と高貴な貴族の女性。
その身分差が二人の間に横たわり、関係が壊れたのでは?

そこで思い出す前作(シリーズ3作目「運命を告げる恋人」)でのマリッサの描写。

そういえば変でした。
マリッサが身を養う為に同じ貴族男性から血をもらうことになった場面。

「私には他に好きな人がいるの」

そして再びブッチに出会った時に話しかけてきたその発言内容。

「ブッチ・・・よかったら会いに来てくださらない?」

会いに来たブッチを散々門前払いをしておいての発言は、確かに違和感ありました。
こういうちょっとしたシーンをところどころ入れてくるので、順番通りに読まないとダメなんですよね、このシリーズ。

最大の危機

人間の身でレッサー(殲滅者)達に襲われているヴァンパイアを助けようとしたブッチは、囚われ拷問を受けただけでなく戦士たちの絆を利用しようとした<オメガ>という存在に汚染されてしまう。

ヴァンパイア達と敵対する存在<オメガ>と結ばれる絆。

命の危機に立ち上がるのは、ヴァンパイアの戦士であり親友であるヴィシャス。
時折未来視をするヴィシャスが、ブッチを大事にしているシーンが今までところどころあり、その親密さにちょっと心配になる位だったのですが。

ヴィシャス、大活躍過ぎ。

知らせを受けたブッチは忠告されたことも忘れ防護服を着ずに汚染されたブッチの病室に駆け込む。

「マリッサ、聞いてるのか?汚染が  
「汚染されてるとしたら、わたしは彼とここにいるしかないわけね」

惹かれあう二人の再会。
封じられた世界で二人は思いを通わせるのか  

主人公に起こる様々な変化

シリーズ序盤から常に描かれてきたブッチの恋愛。
あまりに彼目線の描写が多いので、作者が一番気合を入れているんじゃないかと思う程だったブッチの恋愛がとうとうシリーズ4作目にして登場。

1作目であまりの扱いに気の毒だったヴァンパイア貴族・マリッサの恋のお相手でもありますが、今作の見どころは二人の恋愛よりもブッチの身に生じる様々な変化の方が強かった気がします。

これ以上ない程馴染んでいるのに、完全には内側に入れない彼の疎外感、無力感。
にも関わらず<オメガ>によって、彼らにとって相反する存在へと変化してしまう悲劇。

彼の恋愛は?仲間との友情は?
変化が生ずることによって彼らとの関係がどうなるのか。.

見どころはそこでしょう。

しかし、シリーズ1作目では”暴力的な刑事” だったブッチですが、更に暴力的な世界にいるヴァンパイア達の中にいると、とても常識的な人に見えるから不思議ですね。

■ブックデータ

タイトル: 闇を照らす恋人
著  者 J. R. ウォード
翻 訳 者 安原 和見
形   態 文庫
レーベル 二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション
出 版 社 二見文庫
【シリーズ一覧】
 1. 黒き戦士の恋人:ラス
 2. 永遠なる時の恋人:レイジ
 3. 運命を告げる恋人:ザディスト
 4. 闇を照らす恋人:ブッチ
 5. 熱の炎に抱かれて:ヴィシャス
【管理人評価】  
・満足度 ★★★☆☆(星評価2.5)  
・イメージキーワード   
「変化」「侵食」「疎外感」「友情」「命の危機」  
・読後の感想   
「恋愛よりも友情が印象に残った物語でした」

【購入可能サイト】
・Amazon
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・Renta!
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・eBookJapan
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・honto
闇を照らす恋人 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)[紙本]

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【余談】

人間である彼にもたらされる変化は大きく、もしかしたらシリーズで一番波乱な人生を歩む人物かもしれません。

にも関わらず、管理人評価が今一なのは、1作目から延々と引っ張られて食傷気味だったのかなという点と、マリッサが門前払いをしていた理由が明らかになってからでしょうか。

え、そんな理由なの!?

あまりにあっさりした理由で、引いてしまいました。
あの延々と重く思い悩んでいたブッチの時間って・・・。
何はともあれ、あまりに扱いが酷かったマリッサが幸福になれる道にたどり着けたのは喜ばしいことですが。

そしてもう一つの理由。
うん、前作「運命を告げる恋人」が素晴らしすぎた。
前作があまりに管理人好みで、テンション高く読み終わり、その勢いのまま今作を読んだのであまりストーリーに入り込めなかったのが原因です。

それ程、シリーズ第3作「運命を告げる恋人」は、管理人の好みに合いすぎでした。