しめきりはご飯のあとで (ガッシュ文庫) - 中年東子のRなブックレビュー《BL小説》

世話焼き兄貴とお惣菜

小説の中に料理描写があると、それだけで地に足ついた温かな雰囲気を醸し出す気がします。
お惣菜とお弁当のお店を切り盛りする主人公の手際よい料理シーンから始まる「しめきりはご飯のあとで」。

それでは、レビュー開始。

亡き父を引き継ぎ「惣菜の宇野坂」を切り盛りする主人公・宇野坂守里（うのさかまもり）は、倒れて以来寝たり起きたりの生活となった母と王子様フェイスの高校三年生の弟悠里（ゆうり）の三人暮らし。

バイトの真衣美（まいみ）と二人でお店を動かしている。

朝早くから次々とお店のお惣菜を作り、朝ごはんを作り、弟のお弁当まで作る手際の良さは、読んでいて小気味いいです。

自分が自炊が苦手なせいか、小説の中で次々と手際よく料理が作られているシーンを見ると、地に足をついた着実な生活が垣間見えて、それだけで素敵世界に見えてしまうんですよね。

遊びたい盛りなのに店を手伝う為にすぐ近くの高校に通う弟・悠里（ゆうり）と、店のことを気にせず進学しろと諭す主人公のブラコン関係もほっこり。

大事なのは母と弟、そして店と一名のバイトだけ。

恋愛に関わることはどうでもいい主人公。
でも、並々ならぬ苦労があっただろう環境も悲壮感が全くなく、むしろ温かな雰囲気を感じます。

もう序盤のひたすら続く料理描写だけで良作の予感。

出てくる登場人物みんなキャラが立っていて個性的。
例えば恋愛に全然関係ない立ち位置だけど、一緒にお店を切り盛りしているバイトの真衣美（まいみ）。

ふわふわと掴みどころのない性格で飾りの多い面白い髪型をしていても、何人ものオーダーをすばやく受け、優先順位も間違えずに、厨房の守里に伝えておつりも間違わない有能バイト。

早目に来ては母屋に上がって勝手にお茶を入れてくつろいだり、守里が慌しく準備に追われている間に守里の母親をさり気なく引き受けちゃったり。

人と人とがきちんと繋がり合う世界は、読んでいて安心感があって、違和感なく物語の中に入り込むことが出来ます。

安定した世界を揺らすのは、カフェオレ色の髪をした長身美形青年の久礼原（くれはら）アシュレイ。

作家の彼は、ちょっとだらしない格好で空腹を抱えてふらりと守里のお店に訪れる常連客。
ハーフで日本語がうまいが寡黙。

だけど他人を寄せ付けない・・・という空気を醸し出してはいないという彼と短い言葉をやり取りする内に、名前は知らなくても感情を判断出来る位にはなっていた守里。

なんなんだこのプレッシャーは。
こんちくしょう・・・っ！

長身な彼が空腹を抱えてよろよろと店にやってくる様子を見て、ついつい（食事の）世話を焼いてしまう主人公。

いいですね。
美形なのにのっそりとした長身の男性が醸し出す”可哀想” オーラ。

彼の姿に、昔母屋に遊びに来ていた野良猫の姿を重ねる主人公が炸裂させる、これ食え！モードも見ていて楽しいです。

この作品の何がいいかって、登場人物みんな個性的なところなんですが、その中でも主人公二人、特にアシュレイのキャラがいいです。

料理上手な主人公と比較して、生活能力がゼロにも関わらず、

兄様の淹れる飲み物は、喩えそれが水であっても世界一なんだから

アシュレイの妹・ルースレッドが太鼓判を押す、謎の飲み物美味化スキルを持っていたり。

ノーマルなのにアシュレイに告白されて気まずいにも関わらず、ついついアシュレイの世話をやかずにはいられないお節介モードを炸裂させる守里とか。

何よりぐいぐい口説くのに欲望に走らない、いや走ってはいるんだけど暴走することないアシュレイの落ち着きっぷりというのでしょうか。
寡黙で大きな美青年が、好き好きという態度で主人公の周囲をうろつく感じ・・・大好きです。

BLで主人公がノーマルだと、無理やりとか過剰なエロ描写に走る物語をよく目にするのですが、この作品は穏やかで、でもドキドキもある、安心して読めるストーリー展開が魅力的な作品でした。

タイトル: しめきりはご飯のあとで

著　 者　 髙月 まつり
イラスト　高城 たくみ
形　  態　文庫
レーベル　ガッシュ文庫
出 版 社　海王社

【管理人評価】
　・満足度　★★★★★（大好き！）
　・イメージキーワード 
　　「食事」「料理」「寡黙」「ブラコン」「温かい」「商店街」
　・読後の感想
　　「やっぱり胃袋を掴まれると惚れるよね・・・。」

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